It was a dark windy night. #5

「へぇ、全然醜くないじゃん。むしろ、かっこいいよ。
 なんだ、期待して損しちゃった。必死になって隠すからどれだけすごいのかと思ってたのに」

僕の素顔をみて彼女はそういった。

「何言ってるんだよ。僕はオークなんだよ? さっき君だっていってたじゃないか。オークは『醜い怪物』だ、って」
「オークが醜く見えるのはその残虐な心のせいだよ。あなたはそんなことないもん。
 とっても優しい顔してる。はい。次はあなたが答える番だよ。なんで命を狙われてるの?」

いいのかな。そんなあっさりと片付けちゃって。
きっと彼女は人間の中でもかなり変わった部類にはいるのだろうな。
僕もオークの中ではかなり変わった部類に入るから、人の事はいえないけど。

「実は僕、オーク族の王子なんだ」
「ふうん」

別に大げさなリアクションを期待していたわけじゃないけど、ここまで反応がないと寂しい。

「あんまり驚かないね」
「うん。あなたみたいなオークが一杯いるとは思えないから……。何か特別なんだろうな、とは思った。実を言うと最初っから気配でオークだな、っていうことはなんとなく気付いてたんだ」
「そうなの?」
「うん。でも、黙って歌を聴いてるし、変わったオークだなぁ、と思って興味があって声かけてみたんだ」

最初っからばれてたのか。

「わかっててわざと『フードをとって』とか『あの男オークだったのかな?』とか『オークは残忍だ。醜い怪物だ』とか言ってたの?」
「うん。あなたが焦ってるのを見るのが楽しかったから」
「君、きっと将来悪女になるよ」

怒るかと思ったら、逆に微笑まれた。

「もうすでにそうかもよ?」

それ以上彼女の顔を見ていられなくて、はるか遠くの方に視線を移す。
これ以上みてると、本当に好きになってしまいそうだ。

「それで、僕を殺そうとしてるのは兄さん達なんだ。王の世代交代が近くて……。次の王は、現王の息子のうちの誰か、っていうことになってる。僕が選ばれるとは思えないけど、可能性はつぶしておこうということなんじゃないかな」
「そっか。王様が決まるまではああいうのと戦わないといけないんだね」
「そういうことになるね」
「じゃぁ、はい」

といいながら、ダガーを突き出す。

「これ、貸してあげる」
「だめだよ。だってこれは君の大切なものじゃないか」
「うん。だから貸すだけ」

僕は首を横にふる。

「僕が死んだら返せなくなる」
「返せるようになるまで死ななければいいじゃない」
「そりゃ僕だってそうしたいけど」
「そうしたいならそうして」

僕は考えた末にこう答えた。

「わかった。死なずにちゃんと返す」
「うん。約束だよ」

そしてまた微笑んだ。
それから少し真剣な顔をして顔を近づけてくる。
僕はまったく動けずにいた……。

「それじゃ、またね」

それだけ言い残すと彼女は行ってしまった。


二人のオークが声をかけてくるまで、彼女の去っていった方向を見ていた。
手が自然と彼女の唇の触れたあたり───右頬にいく。
僕は気付かずつぶやいていた。
「女の子の唇って柔らかいな」